第十三席 時代劇

 今回は有名時代劇。

 なんといっても里見浩太朗(さとみこうたろう)の水戸黄門役はおかしい。だれがなんと言ってもおかしい。石坂浩二(いしざかこうじ)の水戸黄門もおかしかったが、里見浩太朗はけっして水戸黄門には見えない。ジェームズ・ボンドをシュワルツネッガーが演じるくらいの違和感がある。

 「遠山の金さん」は、時代劇の中で最も人気を博したシリーズであろう。日本人は金さんが好きなのだ。だから裁判員制度なんぞ、日本人にむいているはずがない。
 議論より情けなのだ。遠山の金さん流に裁(さば)くとしたら、「裁判官が見たから有罪」となる。つまり、遠山様は、自分が手がける事件は、すべて己の目で確かめていなければ裁けないということだ。
 それにしても、下手人(げしゅにん)も能がない。遠山様に「この桜吹雪に見覚えはないか」と聞かれたら、きっぱりと「見覚えはございません」と言えばいいのに。

 「桃太郎侍」。はっきりいってこいつは殺人鬼である。
 懇意にしている町娘のおとっつぁんが目の前で殺され、そこで「許さん!」と彼はぶち切れる。しかしすぐに殴りこみにいかず、いったん家に帰ってから衣装をチェンジしてやがるのだ。それも随分と派手な着物に替える。
 そして悪代官が越後屋と座敷で祝杯をあげていると、桃太郎侍は照れることもなく庭で踊り始めるのだ。それもお囃子(はやし)つきで。お囃子をやとっているんだろうね、毎回のことだから、月々幾らかでね。お囃子はドラマの効果音ではない。だって何も音がないところで、般若(はんにゃ)の面をつけて頭に布をかぶせて待っていたら、ただの危ない人です。
 悪代官が彼に気がついて「何やつだ!」というと「桃から生まれた桃太郎」とわけのわからない自己紹介をする。「桃太郎」というおとぎ話が一般的になったのは明治になってからです。当然、江戸の人は桃太郎を知らない。それなのに「私は桃から生まれました」と自己紹介なんぞされたら、「出あえ!」なんて悪代官は慌てやしません。頭のおかしなやつが庭に紛れ込んだと思って、ただただ追い払おうとするだけでしょう。
 「出あえ!」というと、どこで待機していたのか家来が大勢飛び出してくる。そして相手は葵(あおい)の御紋(ごもん)をつけているにもかかわらず、つまりは将軍家であることを示しているというのに、なんのためらいもなく家来は桃太郎侍に斬りかかっていく。
 少しは自分の命を大切にしなさいといいたいぐらい、すきだらけの形で斬り込んでいく。また桃太郎も平然と家来を斬り殺す。家来は悪くないのだよ。彼らにだって生活というものがある。家族がいるはずだ。女房もいれば、子供だっているかもしれない。桃太郎侍は少しはそこらへんのことを考えて行動していただきたい。

 「座頭市」。彼の得意技は壁を伝ってくる虫を、爪楊枝(つまようじ)で一刺しにすることだ。一緒にいた人が驚いて、
 「市(い)っつぁん、どうしたんだい?」
 すると座頭市、
 「へへへ、ヤモリでござんすよ」
 ヤモリとトカゲの区別がついてしまうのである。
   「座頭市子守唄」という歌を勝新太郎さんが歌っていたが、めいっぱい声を張り上げて「子守唄ぁぁぁぁぁ!」
 寝ている子供が飛び起きるうるささであった。
 目が見えなくて剣の達人という設定はすごいが、勝新太郎さんの兄貴若山富三郎さんが、弟に負けまいと主演した時代劇を覚えているだろうか。「鬼一法眼」(きいちほうがん)といって、耳が聞こえずしゃべることができない侍が登場する時代劇だ。目が見えなくても剣術が強いというのはすごいが、耳が聞こえなくてしゃべることができない場合は、剣術の腕にはあまり影響がない。ただただ気の毒なだけの侍であった。

 「銭形平次」は教育上、よろしくない時代劇だった。悪人をつかまえるために銭を投げるなんて。石でいいじゃないか。
 私はその昔、「銭形平次」のコントをやったことがある。銭を投げすぎて貧乏になってしまった平次が生活保護をうけているというコントだ。

 萬屋錦之介(よろずやきんのすけ)の「破れ傘刀舟(とうしゅう)悪人狩り」のコントもやったなぁ。
 悪人に向かって、
 「お前たちは人間じゃねぇ、たたき斬ってやる!」
 が刀舟の決めゼリフ。彼は医者だ。医者の言うセリフじゃない。
 で、私がやったのはどんなコントかというと、刀舟が、
 「お前ら人間じゃねぇ、たたき斬ってやる!」
 といいながら、犬、猫、昆虫、ネズミ......と、あらゆる生き物を斬り殺したものだから、町から小動物が消えてしまい、あるとき、それを不審に思った桃太郎侍が調べにくる。
 「桃から生まれた......」と聞いた刀舟が、
 「お前は人間じゃねぇ、たたき斬ってやる!」
 と言いながら彼に斬りかかるという、実にくだらない内容でした。

2009年12月14日