第八席 法律

 日本のギャンブルと売春事情は実に変だ。
 パチンコはあきらかにギャンブルであるのに、「そうでない」と国が認めている。景品目当てでパチンコ屋に行く人なんているのか? 皆、金ほしさに行っている。
 日本にもカジノを作ろうなんて頑張っている政治家がいるが、これだけ国中にパチンコ屋があるのだから十分である。

 パチンコをギャンブルにしないために、店側も苦肉の策をとっている。
 まず店の中では100パーセント換金はできない。玉が出るとこれを景品カウンターでライターの石みたいな、なんだかよく分からないものと交換させる。そして客は店外の換金所に向かう。この場所がなかなかわからない。店のすぐそばにあるところもあれば、かなり離れた所にある場合もある。大抵の場合は、雑居ビルの奥にひっそりとそれは存在する。
 窓口がいくつか並んでいて、手前の引き出しにパチンコ屋で玉と引き換えに渡されたライターの石を入れると、陰険そうな、キヨスクの店員を数十倍愛想を悪くしたようなおばちゃんが無言でその石を数え始める。当然、挨拶もなければ「いらっしゃいませ」もない。
 やがて小さな電光掲示板に金額が表示され、引き出しに無造作に金が放り込まれ、それを客も無言で受け取り、その場をこそこそと去るのだ。

 つまりなにをしているかというと、ライターの石をその無愛想なおばちゃんに我々が売ったのである。だからこれは売買であり、ギャンブルではないということになるのだ。でも我々は本来、ライターの石を売るのが商売ではないから、なんとも決まりが悪く、こそこそとしてしまうのである。
 競馬場で当たり馬券を換金するときは堂々としていられるのに、パチンコの換金はとっても悪いことをしている気分になる。ギャンブルの精神からしても、パチンコの方がよりギャンブル的であると言えまいか。

 売春に話を移そう。日本の法律では売春は禁止されている。でも堂々と行われている売春がある。ソープランドである。
 あそこにいる女性とお話を目的だけで行く人なんてまずいない。女の肉体を買いに行くのだ。でも法的には、あの密室の中では売春は行われていないことになっている。
 あそこは風呂屋なのだ。それが証拠に入り口に入浴料と記されている。ならばもう少し門構えを銭湯らしくしていただきたいがね。そうすれば、吉原(現在の台東区千束。江戸時代に遊郭が集積して栄えた地域で、現在は日本一のソープランド街)も随分と、風情のある町になるのだが。

 ソープランドとは、とどのつまりが、客が高額な入浴料を支払って風呂に入りに行っていることになっているのだ。そして女の三助(さんすけ)がサービスをしてくれるのだが、性行為に関しては個人の自由であり、売春ではない、とこうなる。

 どうも日本人は法律の合間をつき、都合よく解釈するのが得意な民族らしい。考えてみると、自衛隊の存在からして変だ。憲法で日本国は軍隊を持ってはいけないことになっている。でもそれでは困るので軍隊ではなく、自衛のための集団をこしらえた。自分たちから攻めることはないが、攻めてきたら守るために攻めますよという、これが自衛隊だ。

 でも、自衛隊は誰がどうみても軍隊だ。戦車を持っているではないか。軍服みたいな服を着ているではないか。見た目が全くの軍隊だ。
 引っ越し屋は引っ越し屋の格好をしているし、コックはコックの格好をしている。人はまず、見た目から判断をする。パンチパーマで、サングラスをして、高級そうだが品の悪いスーツを着て、小指がなくて、ベンツに乗っていて、「私はヤクザじゃありません」といったって、世間ではこういった人をヤクザという。

 だから北海道の雪祭りで活躍をしようが、洪水のときに中州で取り残された釣り人をヘリコプターで救出しようが、あの姿では軍隊なのである。
「イラクに物資を運びに行っただけ」と主張しても、軍隊の姿で手伝っていたらテロリストは日本から軍人が来たと思ってしまうのだ。どうしても自衛隊は軍隊ではないというのならば、普段は黄色いTシャツでも着て活動をしなさいね。

2009年11月 7日