第二席 コギャル

 数年前、尼崎で電車の脱線事故があった。あの際、先頭車両に乗っていた方が多数お亡くなりになった。マスコミはこぞって先頭車両が危険だと煽(あお)った。あるとき、ひとりのおばさんが、女性専用車両が先頭車両であることに対して駅員にクレームをつけていた。「おたくの会社は、女をまとめて殺すつもりなの!」。ヤクザより性質の悪い因縁(いんねん)のつけかたである。

 で、先頭車両が危険だと思われていたときに私が実際に目撃したことなのだが、駅でコギャルがこんなことを話していた。
 「先頭車両、チョー怖いんだけど。先頭車両、なくしてほしいんだけど!」
 あのね、先頭車両がなくなったら、二両目が先頭車両になるんだけど。

 鎌倉に修学旅行で来ていた女子学生の会話。鎌倉の大仏を見て、
「ねえ、すごくない。チョー大きなお地蔵さんなんだけど」
 あんなでかい地蔵はいません。

 上野動物園で虎を見たコギャルが、
 「ねえ、あの柄(がら)、ウケルんだけど」
 虎の模様を見て、「柄」ときたもんだ。

 一時期ブームになった、あのヤマンバギャルというのは不愉快だった。小汚い。
 日本人は、古くから「白きは百難を隠す」といわれていたのに、わざわざ黒くして、ブスを際立たせ、頭は金髪に。連中には「緑の黒髪」なんという言葉は知らないだろうな。
 目の周りは歌舞伎役者のごとく白で縁取りをして、唇は体力のない子供がプールに入った後のように青くして、下着のようなシャツをきて――キャミソールというらしいが、昔はシミーズと呼んだんだ――、肌をあらわにして、あれでもって槍(やり)を担いでウホホホーイと飛び跳ねたならば、アフリカの奥地にある未開の村で記念写真を撮ったって何ら違和感はないだろう。

 厚底ブーツなんというのも流行(はや)った。
 渋谷の町をパッカパッカ歩いていやがる。東京競馬場のパドックでもあるまいに。昔は吉原(よしわら)の花魁(おいらん)が道中のときに履いたもんだ。私は達磨(だるま)落としのハンマーをもってきて、片っ端から彼女たちの足元をはらってやりたいと思ったよ。

 色々なところにピアスをつけているも気に入らない。
 ピアスは耳につけるための装飾品だ。ピアスを鼻につけるなんて、リボンを尻(しり)につけているのと同じ愚行だとなぜわからない。唇にピアスをつけている馬鹿までいる。しゃべるときに歯にガチャガチャあたって気になって仕方がないだろう。納豆を食べたら、ネバネバがピアスにつくぞ!
 臍(へそ)につけているすごいやつまでいる。元来、臍は敏感な場所で、臍のゴマを取ろうとすると、変なところが痒(かゆ)くなったりするではないか。あそこに金属を刺すというのは見上げた馬鹿だ。昔は、臍を出しっぱなしにしていると、母親が怒ったものだ。
「お臍を出していると雷様にとられちまうよ!」
 現在のガキは平然と臍に金属をつけている。いつの日か、雷が臍に落ちるに違いない。

 先日、電車に乗っていたら、私の目前にコギャルが立ったのだが、臍にピアスをつけていた。座っている私の目線にちょうどそのピアスが飛び込んでくるのだが、何かに似ていると思った。しばらく見ていて気がついた。ブルドックソースの中蓋(なかぶた)だ。思わずペコンと剥(は)がしたい衝動にかられた。

 携帯電話にストラップをつけているコギャルをよく見かけるが、時折尋常じゃない量のストラップをぶらさけている子がいる。もはや「携帯」の意味をなしていない。運ぶのが重労働なぐらいの重さになっているはずだ。
 携帯電話命の彼女たちから携帯を奪ったら、おそらくコギャルは絶滅するであろう。待ち合わせの仕方もわからないし、手紙の出し方も知らないし、暇つぶしの方法も知らないのだから!

2009年9月25日