第七席 電車

今回の悪口のターゲットは電車。
 私も愛用しているのだが、SUICAPASMO、あれは精神的によろしくない。使うたびに金額が減っていくというのはストレスになる。1000円を切ると改札の表示が赤文字になり精神を圧迫してくる。
 そんなことどうでもいいだろうとおっしゃる御仁もいるだろうが、現代社会のストレスとは、こういった小さなものの積み重ねなのだ。

 JRの行為で一番腹立たしいのが、駅のホームで購入するグリーン券だ。ご存じない方のために説明をしておこう。
 首都圏では通勤に使う電車にも「グリーン車」がある。このグリーン車に乗るにはグリーン券を買わなくてはならない。
 たとえば東海道線は、普通車両と特急車両が一緒になって走っている。品川から横浜ぐらいの距離ならば普通列車に乗車するのが普通であろう。これが品川から大船あたりまでとなると、ちょいと旅行気分で特急車両に乗ってみたくなる。旅行気分でなくても普通車両が混雑しているとき、あるいはどうしても疲れていて座りたいときに特急車両に乗ろうということになる。その場合は、みどりの窓口ではなくホームの券売機でグリーン券を購入することがある。
 現在は、SUICAの類でしか購入できないシステムになっている。ホームの発券機にSUICAを入れるとグリーン券代金を引かれ、それを持って列車に乗り込み、空いている席の上にあるSUICAのマークにカードをがざすとランプが消えてそこが自分の座席になるという仕組みだ。
 なにが腹立たしいかというと、まず特急車両が満席で座れなくても、料金は取られたままになるのだ。高い金を払って通路に立たされるのだからたまらない。いくら車両がきれいだからといって、座れもしないのに余計な金を払う人はいない。落語でいえば、吉原に遊びに行って女郎に振られて金だけとられたみたいな気分になるじゃないか。例えがちょっと変だが。
 返金しないということは、その手間が面倒だということ意外に理由が見当たらない。
 さらにむかつくのが、この状況を回避すらために、ホームの券売機でグリーン券を買わず、電車がホームに入ってきて特急車両が空いていることを確かめて、やれ安心と電車に乗り込み、中で精算をしようとすると、金額が違うのである。あらかじめ告知はされているが、知らせりゃいいというものではない。電車の中で買うと高いのだ。そんな馬鹿な話があるか。
 落語会に行って、受付でチケットを購入したら3000円で、もう開演しちゃったからとりあえず会場に飛び込んで、会場内でチケットを購入したら3500円だった、なんて話は聞いたことがない、というか、そんな状況はまずないですが。
 とにもかくにもJRのやっていることは、はっきりいって滅茶苦茶である。

 朝のラッシュ時に社内の椅子(いす)を全部たたんでしまう、というシステムも失礼だ。ひとりでも多くの人間を詰め込むためなのだが、椅子をなくすというのはいかがなものか。あれではまるで、アウシュビッツに移送されている悲劇のユダヤ人と同じ形だ。人間性を無視しているといわざるを得ない。
 私はラッシュになれていないから、たまにそんな状況に出くわすと面食らう。電車に椅子がない! 真ん中のポール状の鉄の棒がむなしく浮かび上がって見える。この棒にすがりついて、人の波に押されていると、なんだかアメリカのストリッパーになった気分になってしまう。

 山手線の駅名に間違いがあることをご存知かな。
 ひとつは「高田馬場」。みな、「たかだのばば」と言うが、正式には「たかたのばば」だ。講談でも「たかたのばば」といっている。そもそも地名からしてあそこは新宿区高田(たかた)ではないか。鉄道のお偉方が田舎の人で、「たかだのばば」と読んじゃったのだろうね。そのせいで今では誰もが「たかだのばば」と間違って覚えてしまった。
 もうひとつが「秋葉原」。「あきはばら」と誰もが言うが、本来は「あきばはら」。秋葉様が祭ってある秋葉神社があるから「あきばはら」なのだ。これも田舎の人が「あきはばら」と読んじゃったんだろう。もっとも現在、若者はみな秋葉原のことを「アキバ」というから、元に戻っているんだけどね。

 「品川」駅が品川区にないというも変な話だ。あそこは港区高輪(たかなわ)だ。ならば「高輪」でいいではないか。「高輪」を「品川」駅にしちゃったから、「北品川」駅がおかしなことになっている。「品川」駅から見て北にないのに「北品川」駅と主張しなくてはいけない。
 世間は、弱小駅である「北品川」が間違っていると思ってしまう。本来は、目黒川にかかっている旧東海道の品川橋を中心に南品川、北品川と呼んだのだ。だから「北品川」駅は間違っていない。

 ちなみに旧東海道は現在一方通行。酷(ひど)い話だ。旅人が出発をしたら戻ってこれないぞ、って、現在旅人はいないけれど。

 川島雄三監督の名作映画「幕末太陽傳」(ばくまつたいようでん)の舞台になった土蔵相模(どぞうさがみ)という女郎屋の跡が旧東海道にあるのだが、今ではそこにコンビニが立っている。あの辺には女郎屋の他、鉄火場(てっかば)もたくさんあったそうだが、一番大きな鉄火場の跡地に現在「どんぐり保育園」があるのも凄(すご)い。

 最後は余談でした。

2009年11月 2日