天ぷらは、旬の素材を楽しむのに最適な料理法のひとつ。いまは、冷凍の海老天やイカ天も売られているが、本来は、その時期にしか手に入らない旬の魚介や野菜を、衣をつけてシンプルにさっと揚げたものである。
おいしい天ぷらには、すしネタに劣らぬ鮮度の魚、採れたての野菜が必要で、だからこそ、高級天ぷら店の客単価は、高級寿司店にも劣らぬ高額なものとなる。
サクサクの衣を破って歯が抵抗感を持って素材に食い込んだ瞬間、アツアツの素材のなかから気化した水分がホワッと口一杯に広がる。この「さっくり」のあとにくるホクホク感こそが、天ぷらのうまさだと思う。
しかし、たとえ良質な材料をそろえたとしても、家で作るとこれがなかなかうまくいかない。やはりおいしい天ぷらには、一定の温度に保たれたたっぷりの良質な油と、職人の腕とが重要なのだ。だが、前者は家庭料理としては予算オーバーだし、後者は素人に望むべくもない。
そこで提案したいのは、天ぷらは専門店に任せて、代わりに「旬の春巻き」を作ること。皮に旬の素材を包んで揚げれば、その中身は素材自身が持っていた水分で蒸された状態になり、パリパリの皮を破ると当時に、素材の素晴らしい香りと、あのホクホク感が口のなかを満たし、素材そのもののうまさを存分に楽しめるのだ。
いまの時期のおすすめなのは、スナップエンドウやそら豆、そして、たらの芽やふきのとうなどの山菜、菜の花など。いずれも、火の通りやすい食材であり、それがおいしい春巻きを作るための素材選びのポイントとなる。
鍋やフライパンに、素材が半分程度ひたる量の油を入れる。そこに、素材を春巻きの皮で入れ、片面が色づいたらひっくり返して両面を薄いきつね色に仕上げれる。ここで紹介した素材には、もうそれだけで火が通る。
油は鮮度のよい良質な菜種油やオリーブオイル、太白(たいはく)ごま油などを使う。いずれも廉価なサラダ油に比べるとやや高いが、上記の方法だと少ない量でおいしく揚げることができるので、予算的にも許容範囲だろう。
春巻きの皮は、保存料や香料などの添加物の入らない無添加のものがよい。
パリパリのあとのホクホク、そして春の香りを存分に楽しんでほしい。
なお、冒頭の春巻きの写真は、みなさんに中身を見ていただくために半分に切ったものであり、実際に供するときには、切らないように。皮に閉じ込められた香りと蒸気が抜け出てしまって、おいしさが半減してしまう。