料理を作る際に「下ゆで」という工程がある。私はこれが気に食わない。
例えばフライドポテトを作るとき、じゃがいもを揚げる前にわざわざゆでたり電子レンジにかけたりする。にんじんを炒める前にゆでたり、鍋ものに入れる野菜類をあらかじめゆでておいたりする。ふろふき大根を作るとき、まず水で下ゆでしてから、だしで煮る。
揚げたり炒めたりして表面に焼き色がついたとき、中心部が生だったらだめだからなのか。鍋もののとき、煮え上がる時間を短縮したいのか。ていねいにアクをすくうのが面倒なのか。
確かに先にゆでておけば、そのあとの工程で、微妙な火加減を意識したり、火の通り具合を気にしたりする必要はない。しかし、その程度のことのために、下ゆでによって素材が持っているかけがえのない味わいや香り、栄養素が失われてしまうことを、なんとも思わないのだろうか。
なんだか男らしくない。姑息(こそく)で、堂々としていない。そしておいしくない。
食べ比べてみれば、生の状態から弱めの火加減でじっくりと揚げたじゃがいもや、生のまま油となじませて炒めたにんじんのほうがおいしいことはすぐわかる。アク取りを怠らなければ、生野菜を直接入れた鍋ものの汁のほうが複雑なうまみがあるし、生の状態で昆布とともにていねいにアクを取りながら炊いていったふろふき大根のスープは絶品だ。
もちろん例外もある。例えば、ジャーマンポテトは事前にじゃがいもをゆでたほうがうまい。ただそれも、私は、ジャーマンポテトとは、ほっくりとゆであげたじゃがいもにカリっとした揚げ色をつけ、ベーコンを絡ませた料理だと考えているので、「下ゆで」とは少し違う気がする。
だから基本的に、レシピ本に「下ゆでしておく」とか、「あらかじめ電子レンジにかけておく」などとあると、もうその本の先を読む気がしなくなる。
そんな私だが、実は「下ゆで」ならぬ「下焼き」なら大好きだ。
前回のカレーレシピでも、まず野菜を焼いてから調理したが、この下焼きをすると特に野菜類がぐっとおいしくなるのだ。甘みが増し、香りも高まり、焦げた皮をむいて取り除くことで、舌ざわりがよくなると同時に、味や風味を損なわずに、渋みなどの違和感のある味が取り除ける。
そして前回も書いたが、どういうわけか、直火で焼くのは楽しい。しらたきやこんにゃくのアク抜きなどでやむを得ず下ゆでをしていると、なんだか自分が卑怯者になったような気がして、台所の隅で背中が丸まってきたりするのだが、「下焼き」のときは背筋も伸び、ひたすらウキウキとして楽しい。また、その熱と立ちのぼってくる香ばしさと香りがすでにおつまみのようなもので、ついつい缶ビールをプシュっと開けたくなる(というか、開けてしまう)。
トウモロコシを直火で焼くと、いっそう甘くなり、それで香ばしいポタージュを作る。
焼いたミニトマトはしょうが酢に浸けてマリネにする。
ピーマンを焼いて焦げた皮をむき、サラダにするとピーマン嫌いのウチの子もガツガツと食べる。
枝豆も塩でもんで焼く。これは、「さて、これで何を作ろうか」と迷っているうちにそのままビールのつまみになってパクパクと口に放り込んでしまい、「下焼き」というよりただ焼いて食べるだけになってしまうのだが、鉄の意思で途中で食べるのをやめ、残ったものをナンプラーとごま油で和(あ)えたら、なかなかよい。これはムースや枝豆豆腐にしてもおいしいだろう。
こんなふうに、下焼きをするとアイディアがわき、料理が楽しく、そしておいしいのである。
ところで、そんな下焼きの王道は、やっぱりナスとパプリカだと思う。ただ直火で焼くだけでもとびきりおいしいこの二つの野菜については、また次週、たっぷりと語りたい。
焼きトウモロコシのポタージュ
材料(1~2人分)
- 牛乳......トウモロコシ1本に対し200ml
- 塩、こしょう......適宜
好みで生クリームを加えてコクを出す。
また豆乳を使えばヘルシーなスープとなる。
作り方
- トウモロコシを直火か魚焼きグリルかオーブントースターで、焦げ目が少しついて、火が通るまで焼く(適宜、途中でひっくり返す)。
- 粒を芯(しん)から外し、牛乳とともにミキサーにかける。
- ざるで漉(こ)してから鍋に入れ、沸騰しない程度まで温め、塩、黒こしょうで調味する。
ミニトマトのしょうが酢漬け
材料(3~4人分)
- ミニトマト......20~30個
- 水......200ml
- 米酢......100ml
- 日本酒......50ml
- みりん......50ml
- レモン汁......大さじ1
- しょうが......スライス2枚
- しょうゆ......大さじ1
- 塩......小さじ1/2
- 昆布......5cm角程度1枚
- かつおぶし......ひとつかみ
作り方
- ミニトマトを直火か魚焼きグリルか、オーブントースターで、皮が割れて焦げ目が少しつくまで焼く。
- 鍋に水と米酢、日本酒、みりん、しょうが、昆布、塩を入れて火にかける。
- 沸騰したらかつおぶしを加え、2分ほど火を入れて止め、かつおぶしが沈んだら網で漉(こ)す。
- 漉した汁にしょうゆとレモン汁を加え、ミニトマトを入れる。
- 粗熱(あらねつ)が取れたら冷蔵庫に移し、一晩以上おく。4~5日以内に食べきる。皮は硬いので、気になる人は食べる際に取り除いてもよい。
焼きピーマンのサラダ
材料(3~4人分)
- ピーマン......10~12個
- レモン汁......大さじ1
- ハチミツ......小さじ1
- 塩......小さじ1/4
- 黒こしょう......少々
- クミン......少々
- シナモン......少々
- 粉とうがらし......少々
作り方
- ピーマンを直火か魚焼きグリルかオーブントースターで、皮が浮いてきて焦げるまで焼く(適宜、途中でひっくり返す)。
- 焼けたら皮をむいて、ヘタと種を取り除く。
- 残りの材料をボールに合わせ、ピーマンを入れて全体をなじませる。
枝豆のナンプラーあえ
材料
- 枝豆、塩、ナンプラー、ごま油......各適宜
作り方
- 枝豆は塩でもみ、オーブントースターに入れて、火が通るまで焼く。
- さやから出し、時間があれば、さらに薄皮をむく。
- ナンプラーとごま油で和(あ)える。味が染みた翌日も美味。