第9回 秋さばと柚子(ゆず)が織りなす「秋味のコンチェルト」

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 もう15年も前のことだが、ある雑誌にのっていたひとつのレシピに衝撃を受けたことがある。

 その雑誌では、有名シェフたちが自分のレシピを紹介しており、ページを繰るごとに、華やかで美しい、おいしそうな料理写真が目に飛び込んでくる。フレンチのページに入ると、「色とりどりの野菜にセルクルで円形に整形されたクスクス」といった、いっそう洗練された料理があらわれた、と思いきや、さらにページをめくると、定食屋でもこれはないだろう、というような、荒っぽい料理に目が釘付けになったのだ。

 さばの切り身の上に、揚げたじゃがいもがドバーッとのっている。それだけ。いったいこれのどこがフレンチなのか、と料理のタイトルを探すと、そこには「じゃがいもとさば」とだけ書いてある。そのまんまである。あまりに無骨すぎる。先ほど「ドバーッとのっている」と書いたが、たしかレシピの手順にも、「じゃがいもをドバッとかける」などと書いてあったはずだ。

 作ったのは、大阪の有名フランス料理店シェ・ワダの和田信平シェフ。
 料理に詳しくなかった当時は彼の名を知らなかったが、前後のページの洗練されたフレンチレシピから見事に浮き上がった、この強烈に個性的で、反骨心さえ感じさせるレシピに私は魅了されたのだった。

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 作ってみると、じゃがいもは澄(す)ましバターで揚げるグラス・ド・ヴィアン(フォン・ド・ヴォーを煮詰めたようなもの)を使うなど、案外細やかな作業が必要だった。そして、できあがりは、それらの手順を踏むことの意味がよくわかる、二つの食材の長所が完璧(かんぺき)に一体となった絶妙な味わいで、感動したのだった。
 そんなわけで、さばという食材には特別な思い入れがある。この「じゃがさば」以外でも、今でも印象に残っている料理には、さばを使ったものが多い。

 会社に入ったころ、吉祥寺(きちじょうじ)の居酒屋で食べた、塩さばと大根で作る船場汁(せんばじる)。
 京都に住んでいたころに、染織家の妻の先輩宅で食べさせてもらった焼きさば寿司。これは一日たって固くなったさば寿司を七輪(しちりん)の隅で炙(あぶ)ったものだ。
 とびきり新鮮でまるまると太った佐渡のさばで作った、柑橘(かんきつ)を効かせたしめさば。
 どれも忘れられない大好きな味である。

 そんなわけで、今回のテーマはさば。旬を迎えたいわゆる「秋さば」だ。
 ただ普通にさばを扱うだけでは面白くないので、まずは「塩さば」を作る。
 最近は、豚バラ肉を使って自家製の塩豚を作る人も増えているが、その感覚でまず「塩さば」を作り、それを使うのだ。
 そして、やはり旬を迎えて出回り始めた柚子(ゆず)を使って、大好きなさば料理をリメークしてみた。

「しめさば」は、塩さばを薄切りにしたさばのカルパッチョに変身させた。
「じゃがさば」は「じゃが塩さば 柚子風味」に。澄ましバターやらグラス・ド・ヴィアンやら、本格的な材料はなかなか手を出しにくいので、家庭でもできるように工夫した。
「船場汁」も柚子の香りたっぷりに。
「さば寿司」は、ハチミツを使って洋風に仕立てる。

 まさに、秋にふさわしい味わいである。秋さばと柚子の競演を楽しんでいただきたい。


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塩さば

材料

  • 新鮮なさば......1尾(三枚おろし)
  • 塩......さばの重量の1.5%程度

作り方

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  1. さばは腹骨とそぎ取り、中骨を抜いてまんべんなく塩をまぶす。


  2. バットなどに入れ、ラップをしてすこし傾斜させて冷蔵庫に入れ、数時間から半日ほどおく。


  3. 出てきた汁が低い部分に溜まるので、捨てる。
    *塩の量が少なく、保存は利かないので、当日か翌日に食べきるようにする。


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塩さばのカルパッチョ 柚子風味

材料(2人分)

  • 塩さば......1枚
  • 柚子(ゆず)......1個
  • 好みで、こしょう、唐辛子、E.V.オリーブオイルなど
    *このレシピは特に、鮮度の良いさばを使うこと。

作り方

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  1. 塩さばに柚子1/2個分の絞り汁をふりかけて全体になじませ、5~10分ほどマリネする。ざるの上から絞ると種が入らない。


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  3. 塩さばの皮をむき、薄くスライスする。これを皿に並べ、すりおろした柚子の皮、残り1/2個分の絞り汁をかける。好みで、こしょうや唐辛子、E.V.オリーブオイルをふりかけてもよい。


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じゃが塩さば 柚子風味

材料(2人分)

  • 塩さば......1枚
  • 柚子の皮、絞り汁......1/2個分
  • じゃがいも......2個
  • 揚げ油......適宜
  • バルサミコ酢......大さじ1
  • 塩......少々
  • バター......10g程度
  • 小麦粉......適宜
  • こしょう......適宜

作り方

  1. じゃがいもは皮をむき、大ぶりの拍子木(ひょうしぎ)に切る。


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  3. 鍋に揚げ油を入れ、じゃがいもを加えて弱めの中火にかけ、きつね色になるまで揚げる。揚がったら、塩をふる。


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  5. 塩さばにこしょうをふり、小麦粉をまんべんなくまぶす。


  6. フライパンにバターを入れて弱めの中火にかけ、3を皮目から入れ、こんがりと焼き色がついたらひっくり返す。


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  8. バルサミコ酢とすりおろした柚子の皮、絞り汁を入れてさばにからめ、さらに2のじゃがいもを入れて全体をよくからめる。


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塩さばの船場汁(せんばじる)

材料(2人分)

  • 塩さば......2枚
  • 大根......1/4本程度
  • 柚子の皮、絞り汁......1/2個分
  • 水......400ml
  • 昆布......5cm角1枚
  • 塩......小さじ1
  • しょうゆ......小さじ1
  • 日本酒......大さじ1

作り方

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  1. 鍋に水と昆布、塩、日本酒を入れ、中火にかける。


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  3. 大根はピーラーで薄くスライスする。さばは1枚を3等分に切り分ける。


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  5. 沸騰したらとろ火にし、しょうゆを入れて軽く混ぜ、大根を入れる。


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  7. 大根が柔らかくなったらサバとすりおろした柚子の皮、柚子の絞り汁を入れ、1分ほど煮てから火を消し、余熱でさばに火を通す。


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柚子入り洋風さば寿司

材料(1本分)

  • 塩さば......1枚
  • 柚子の絞り汁......1/2個分程度
  • 硬めに炊いたご飯......1合
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  • ハチミツ(アカシアやクローバーなど、くせのないもの)......大さじ1
  • 柚子の絞り汁......大さじ1
  • 塩......小さじ1
  • 柚子の皮......1/2個分
  • タイム......少々

作り方

  1. 塩さばに柚子の絞り汁をかけて全体になじませ、20分たったらひっくり返してさらに20分ほどおく。


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  3. 硬めに炊いたご飯にAを混ぜ合わせ、うちわであおぎながら冷ます。


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  5. さばの皮をむく。ラップの上に皮目が下になるようにさばを置き、上にごはんをのせて、「巻きす」で巻いて整形する。
    *一日経って固くなったら、切り分けたあとに直火やトースターで炙(あぶ)って食べると美味。


2009年10月23日