佐渡は牡蠣(かき)の養殖が盛んである。シーズンになると海水ごとビニール袋にごっそりと詰められて売られている。買ってきて、シンクのところでビニール袋にはさみを入れると、とたんに海水がどっとあふれ出し、広がる磯の香りに台所が海になったかと思う。
海辺に行けば、天然の牡蠣が波消しブロックや防波堤にびっしりとついている。殻は分厚く身は小さいが、滋養(じよう)と旨(うま)みが詰まったような味。固いナイフでその場でガンガンと叩(たた)いて殻を壊しながら食べる。
殻を壊していると、第15回でも紹介したハチメという魚が寄ってきて、殻が割れて中身が出た瞬間に牡蠣に飛びつき、吸い込むようにして食べてはさっと逃げてゆく。
牡蠣は好きな食材だ。シーズンになると必ず新しいレシピを作って発表している。ネット上にアップしたものだけでも、牡蠣とセリの豆乳キムチ鍋、牡蠣のロールキャベツ、牡蠣のネギショウガ蒸し、黒ビール生地の牡蠣ベニエ、牡蠣のリゾット、牡蠣のライスコロッケ、カキとミルクのオニオングラタン、牡蠣ごはんの焼きおにぎりなど、さまざまなレシピを作ってきた。
個性的な味だが、和洋を問わずさまざまなものに合う。牡蠣うどんや、牡蠣がゆなどのように、とてもシンプルな味わいのものと相性がいい。料理のプレーンな感じを残したままで、複雑で奥行きのある味に一変させることができるのは、牡蠣ならではだろう。肉や魚では味が濁る。野菜では奥行きが出ない。
その一方で、燻製(くんせい)やオイル漬け、揚げものなど、強い味に仕立てても美味。チーズをかけても味噌(みそ)を塗りつけてもビクともしない強い味わい。それでいて他の素材の透明感を損なわないのだからすごい。料理をする人にとっては使いやすく、また想像力をかき立てる希有(けう)な食材なのである。
これまで発表した蠣のレシピのなかで、もっとも評判がよかったのは、手羽先(てばさき)に牡蠣を入れたもの。牡蠣の入った手羽先ギョーザ、「手羽牡蠣」だ。もう4年以上前に発表したものなのに、つい最近も、「あのレシピはすごい」と言われたばかり。よく聞くと、おいしくてすごい、というより、すごく奇想天外というニュアンスだったが。
最近、「このレシピを失敗した」という人に会った。その人の話から、正しい肉の焼き方をしないとこの料理はうまくいかないことがわかった。焼くときに強火で表面を焼きつけ、そのあとすぐフタをして弱火で蒸すような焼き方をすると、中から水分がジャブジャブと出てきてまずくなるというのだ。
自己弁護すれば、この焼き方は普通に肉を焼く際にも、「まずくなる典型的な焼き方」なので、牡蠣手羽は、誤った焼き方を正す契機となる素晴らしい料理ということになる。誤った焼き方をするとすごくまずくなり、きちんと焼くとすごくおいしくなる(すごく奇想天外と言われたが、客観的な判断力を持つ私が思うに、すごくおいしい。ご心配なく)という、とてもはっきりとした性格を知り、私はますますこの料理を好きになった。
このレシピ、書いてから時間がたち、私自身の作り方も変わった。そこで、ここで新たな形で3種類の牡蠣手羽レシピを、まずくならない焼き方とともに紹介する。
3種の手羽牡蠣(てばがき)
材料(2人分)
- 手羽先......6本
- 牡蠣......6個
- 塩、レモンの皮、黒こしょう、パプリカ、花椒(ホアジャオ)......各適宜
作り方
- 手羽先は写真のように両端を持って関節の部分で何度か折る。先端の2本の骨がつながった部分をキッチンばさみなどで切り離し、細いほうの骨をぐるぐるまわしながら、引き抜く。肉がついてくるようならしごきとる。
- 太いほうの骨についた肉と骨をつなぐ筋をキッチンばさみなどで切りはなし、肉をめくるようにして切り離す。肉が骨にしっかりとついている部分は、キッチンばさみで切りながらはずす。ある程度切り離せたら、同様に骨をぐるぐるまわして取り出す。
- 牡蠣はボールに入れ、薄い塩水を加えて、そっとかき回しながら洗う。三つのボールに分け、一つ目は、パプリカをふって和(あ)える。二つ目は中華の 香辛料の花椒をふり、最後のものは、レモンの皮と黒こしょうをふる。その他、七味唐辛子(しちみとうがらし)、クミン、チリソース、柚子(ゆず)こしょ う、おろししょうが、味噌など、牡蠣に合う調味料を使ってもおいしい。
- 牡蠣を手羽先の中に詰めて、楊枝(ようじ)などで縫うようにとめて塩こしょうする。
- サラダ油少々を入れたフライパンに並べる。フライパンを弱めの中火にかけ、8~10分ほどかけてじっくりと焼く。パチパチと音がしてきたら弱火にし、皮目がきつね色になったら裏返し、さらに5~6分焼いて完成。