男女のコミュニケーションギャップを取り扱ったベストセラーに『話を聞かない男、地図が読めない女』(アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ)、『ベストパートナーになるために』(ジョン・グレイ)があります。これらの本で扱われているコミュニケーションギャップのテーマと本連載の「象の鼻としっぽ」との関連を考えてみたいと思います。
これらの本の中で紹介されている男女のものの見方の違いの一つとして「女性は話を聞いて欲しいだけなのに、男性は『問題を解決』しようとする」ということがあります。これは男性と女性のコミュニケーションギャップを端的に表している言葉です。
たとえば『話を聞かない~』では「男は解決策を出したがる」とか、『ベストパートナー~』では、「男は分析して満足する、女は話してすっきりする」「『アドバイスよりなぐさめが欲しい』が女の言い分」といった表現で記述されています。
必ずしもすべての男性と女性がこうであるとは思いませんが、傾向としてかなりの割合の人がこれに類するコミュニケーションギャップを体験したことがあるのではないでしょうか。
ここではこのギャップを例にしてみます(以下、同書で語られている「典型的な」男性像を「男性」、同じく女性像を「女性」と表現します)。
この話における両者は、「象」のどういう側面を見ているのでしょうか。この話も、以前にも紹介した「切り分ける」ことで説明ができます。
コミュニケーションには「コンテンツ」と「プロセス」という側面があります。「コンテンツ」はコミュニケーションの中身や内容で、「プロセス」はその伝え方、あるいは受け方と定義すればわかりやすいでしょう。コンテンツという本体をプロセスという包み紙でくるんでいるという表現もできるかと思います。
このように「切り分け」て考えればおわかりでしょうか。男性というのはコミュニケーションの「コンテンツ」への着目度が高く、女性というのは主にコミュニケーションの「プロセス」への着目度が高いのです(図1)。
これらの違いを具体的に説明しましょう。先ほどの「女性は話を聞いて欲しいだけなのに、男性は『問題を解決』しようとする」という現象を例に取ります。
コミュニケーション「プロセス」を重視する女性にとっては、つまらなそうに聞きながら(プロセス×)アドバイスをしてくれる(コンテンツ○)よりは、楽しそうにうなずきながら(プロセス○)何も言わずに(コンテンツ×)聞いているほうがはるかに快適に感じるのです。
これに対して「コンテンツ」重視の男性は、内容がつまらない(コンテンツ×)と判断した話にはもう全く興味を持つことができません。また、同じ話を別の状況でされても、それには全く興味を示すことができません。これらの状況を図2にマトリックス形式で整理します。
これは「プロセスが良いか悪いか」と、「コンテンツが良いか悪いか」の組み合わせを示したものです。
左上の「プロセスもコンテンツも良い」、あるいは右下の「プロセスもコンテンツも悪い」という領域に関しては、男性の評価も女性の評価も同じため、問題はありませんが、問題は左下の「プロセスは良いがコンテンツは悪い」という領域と右上の「プロセスは悪いがコンテンツは良い」という領域です。
女性は前者をよしとしますが、男性は後者をよしとします。これが、「つまらない話でも一生懸命聞いてほしい」と考える女性と、「偉そうにだろうが、状況に合わなかろうが、中身を改善できるような話をすべきだ」と思っている男性の根本的な見解の相違ということになります。
この他にも、「だまって同情的な目で聞いている」という状態は女性的な視点からは非常に評価が高くなりますが、男性的な視点からは意味がないということになります。
たとえば、『話を聞かない~』の中に「男脳・女脳テスト」として、「口論しているときむかつく態度は?」という質問があります。これに対する回答は男女で異なります。
● 相手の沈黙、あるいは無反応(女性)
● あなたの考え方を理解してもらえないこと(男性)
これらも、ここまで述べたことをこの話をよく物語っているのではないでしょうか。
こうした男性と女性のコミュニケーションに関する嗜好は、一朝一夕に修正することは難しいでしょう。むしろ重要なのは、このメカニズムを踏まえた上でコミュニケーションに臨むことではないかと思います。
相手の思考回路を理解しておけば、無用の争いをゼロにはできなくても、減らすことができるのではないでしょうか。