第2回 「立ち位置」と「フィルター」を意識せよ

連載初回ではコミュニケーションギャップの3大要因の1つとして、複数の人が「1つの象の鼻としっぽ」を見ることを挙げました。引き続き今回は、実際に人間がものを見るときに、どういうメカニズムでこの「象の鼻としっぽ」を見るという状況が生じるかについて考えてみましょう。

2人の異なる人が同一の象を見ているとします。当たり前ですが、観察対象になっている象はまったく同じものです。それにもかかわらず、2人の見ている象の部分が異なってしまうのはどういうことでしょうか。

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図1を見てください。これが「象の鼻としっぽ」が起きるメカニズムです。対象物は1つなのに、見ている側の「立ち位置」と「フィルター」によってまったく違うものに見えてしまうということです。
これらはどこからくるかといえば、個人個人の異なる経験や、生まれつきの価値観、ものの考え方からきます。例えば「肯定的なことに目を向ける人」と「否定的なことに目を向ける人」とでは、同じものを見ても「立ち位置」と「フィルター」が異なっているために話がかみあわないのです。あるいは「偏見」も典型的な「フィルター」の例です(文字通り「色眼鏡」とも言いますね)。
こういった構造がコミュニケーションギャップの根本的原因であり、それが「象の鼻としっぽ」の意図するところです。

ここまではどちらかというと、「見えてしかるべきものが見えない」あるいは「事実がゆがんで見えてしまう」という否定的な文脈で個々人の「立ち位置」や「フィルター」について述べてきましたが、逆に「見なくていいものを見ない」とか、「本当に重要なものだけを選択的に見る」というような肯定的な意味でのフィルターも各個人は持っています。

特に後者については、例えば、膨大な候補の中から正解を選ぶような問題解決の状況において、「怪しそうな」選択肢のみを選ぶなど、「経験によってあたりをつける」といったプラスのことにも用いることができます。こうした使い方は、いわゆるその道を極めた達人やベテランによる「直観力」や「見識眼」ともいうことができます。
つまり、「立ち位置」や「フィルター」は、肯定的にも否定的にもなりうるということです。

もう1つのポイントは、肯定的か否定的かは時と場合によって異なるため、同じ「立ち位置」や「フィルター」を使ってもこれがプラスに働く場合もあればマイナスに働く場合もあり、これは本人も気づかない、あるいはコントロールできないということです。これが人生を難しくします。

では、どうすればよいのか? 一番重要なことは、相手のフィルターを無理に変形させて自分のフィルターに合わせることではなく、そもそも人間というものは、自分も相手も個人ごとに異なる「立ち位置」と「フィルター」を持って物事を見ているのだ、と強く意識することなのです。

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図2を見てください。お互いに違う「立ち位置」や「フィルター」を用いて見ていることに気づいていないAさんとBさんは、ストレスを感じています。「なんで相手はこんなことがわからないんだろう?」というわけです。
でも、このメカニズムを理解しているCさんは、少なくともこの認識のギャップが起こっている理由を明確に理解しています(解決策までわかっているという意味ではありません)。
この「メカニズムを理解する」ことによってコミュニケーションギャップとうまく付き合っていこうというのが本連載の趣旨です。

次回以降は具体的な例で様々な切り口からこの「立ち位置」と「フィルター」の違いを見ていきたいと思います。

2009年11月 4日