10冊め 子供の疑問に真剣に答える難しさを知る『バカなおとなにならない脳』

確率論的思考

乱読日記の6冊目で、『ウェブはバカと暇人のもの』という書籍を紹介したときに、『バカの壁』などで有名な養老孟司先生のこんな言葉を紹介した。
いわく「一番嫌いなものは『正義』」
これは、詩人・谷川俊太郎さんの質問に養老先生が答えたもの。
そのくだりが書いてあるのが、今回ご紹介する『バカなおとなにならない脳』という本だ。

タイトルからもわかるように、この本は子供向けに書かれている。
だけど、大人が読んでも、いろいろ発見があっておもしろい本だと思う。

この本は、子供からの質問に、養老先生が答えていく形式になっている。
子供の質問だから、「なぜ、夢をみるんですか?」「くしゃみをすると、脳ミソがでますか?」というような素朴な質問から、「努力はムダだと思いますか?」「バカな大人にならないためには?」というような思春期の子供にありがちな考え方もでてくる。

往々にして、大人は子供のこういった質問をバカにして、聞き流したりすることが多いと思う。この本の面白いところは、養老先生がこういった疑問を一つ一つ受け止めて、真摯(しんし)に答えているところだ。

たとえば、先にあげた「努力はムダだと思いますか?」に対しては、「どうせ腹が空くんだから、ものは食うな、どうせ死ぬんなら、いま死ねと言ったら、死ぬか?」と言いはなつ。そして、「夏休みとかに、農家にお邪魔して、農業の手伝いでもしなさい。からだをつかいなさいよ」となる。
子供向けにしては、かなりシビアなことも言っている。

だけど、この姿勢は、間違っていないと思う。
子供は、大人が考えるよりはるかにちゃんとものを見ているし、考えている。最近また子供と仕事をするようになって、そう思うようになった。

今、平日の夕方にテレビで放送しているニュース番組で、二人の子供と一緒に天気予報コーナーをやっている。どんな番組でも子供を出すと視聴率は上がるというが、このコーナーのときも必ず視聴率が上がるらしい。

最初、子供と一緒に天気予報をやると聞いたとき、僕はあまり乗り気ではなかった。
それは、それまで全国こども電話相談室とか、子供向けの講演会とかに行って子供相手に話をしたときの経験からだ。こちらの話をちゃんと聞かないし、ワケの分からないことをいってくる。まじめに対応しようとすると、かなり大変なのである。
子供は教育によってだんだん成長するのだから、まだ基本的な教育がされていない子供には何を言ったってだめだと思っていた。

ところが、いざその子供たちと一緒にやってみると、ふたりともすごく賢くて、とてもやりやすい。たくさんの候補の中から選ばれているのだから、当たり前なのかもしれないが、こちらの「フリ」に対して、上手にきちんと反応してくれる。

スタッフに「どういう子が選ばれているんですか」と聞いてみると、屈託がなく、物おじしない、はにかまない、誰にでも大人にでも気軽に話しかける人懐っこい子がいいそうだ。
そうすると、自分は子供のころは「はにかみ屋」だったから無理だな、とか思ったりもする。

ちなみに、その子供たちにはいつも若い女性がそばについていて、最初はお母さんかと思い、「お母さんですか?」と聞くと、「マネージャーです」と言われて驚いた。出演用の衣装まできちんとある。子供といえど、マネージャーがついて衣装が準備される時代なのだ。

それはともかく、このコーナーに出てわかったのは、子供ときちんと話をするのは、結構面白いということだ。思ったよりも上手に反応する。だから、養老先生のように子供にシビアなことを言う、というのは正しいのだと思う。
少しぐらいシビアなことを言っても、子供はきちんとそれを受けとめて、それなりのことを返してくる。「子供だから」といって舐めているとダメなのだろう。子供も一個の人間として扱うほうがいい。

それに、もしかして子供も子供で、「この大人はバカだなぁ」と思っているのかもしれないのだ。

今回の乱読で得たこと

大人は子供よりも賢いことがある

<今回の本>
養老猛司・著 『バカなおとなにならない脳』(理論社)

2010年2月25日